【視聴率】＜真田丸＞第33回は視聴率18.0％　三成が家康襲撃企てる

時代考証の丸島和洋さんのTweet

さて、今回の事件はほとんど知られていないので、完全な創作と誤解されてしまうのではとちょっと心配です。「四大老・五奉行」による「家康私婚問題」追求の最中で起きた一幕をベースにしています。

まず、「七将襲撃事件」とは全く別個の事件です。というより、今回の「暗殺未遂」が「七将襲撃事件」の一因と思われます。

山科言経によれば、慶長４年１月１９日、「家康私婚問題」を追求する詰問使が徳川屋敷に派遣されました。これはただの追求では済まず、極めて軍事的緊張状況下での詰問使派遣だったようです。諸軍記は、加藤・福島・浅野・黒田・蜂須賀・細川等が徳川屋敷を警固する事態に発展したとします。

山科言経によれば、翌20日に「おおよそ片が付いた」とありますが、「私婚問題」に関する起請文が大老・奉行間で交換され、家康私婚を不問とし、「互いに遺恨を持たない」と誓約しあうのは、2月12日ですから、しばらく緊張関係は続いたようです。

また軍記類の一部は、この詰問使派遣と諸大名による徳川屋敷警固を1月21日にしており、「毎晩訪れた」ともあります。「家康私婚問題」の糺明評議については前回すでにやったという話の流れもあり、こちらの日付けを採用することにしました。

この件で一番信頼できる史料は、松平忠明が書いたとされる『当代記』と思われます。忠朗は三河国衆で家康の娘婿である奥平信昌の子で、同書は奥平氏関係の記述がかなり正確ですから、忠朗編纂という通説は首肯できます。

『当代記』によると、慶長４年正月中旬より伏見で皆が「物言い」しあった。これは家康公を亡き者にしようという企てで、中心人物は石田三成である。ちょうど家康の重臣が関東から伏見に上ってきて、また大谷吉継が家康に荷担したため、吉継に近い人々はそれに習った。これで平穏になった。

大谷吉継は文禄３年１０月に直江兼続に「眼病のため花押が書けないので印判で失礼する」と返事を出した後、政界引退状態で、伏見の屋敷で病気療養に専念していました。秀吉は家康を連れて一度見舞っています。しかし、秀吉死去後、病気を押して政界復帰をしていました。

今回の事件は、「家康私婚問題」で憤激した三成が家康襲撃を企てたが、事前に計画が露見したようで、諸大名が徳川屋敷を警固し、それに大谷吉継が参加したことで事態が決したというものです。大谷吉継の行動を受け、真田一族と石川一族も徳川屋敷警固に参加しています。実は、信繁も徳川方でした。

大谷吉継は、政界復帰後は、「家康を支えることで、最終的に秀頼政権の確立を目指す」という行動論理で動いています。なお、三成との「友情の茶会」のエピソードは、近代に入ってからの創作で、しかも吉継の鼻水が落ちた茶を平然と飲み干したのは、最初は秀吉ということになっています。

また、三成と諸大名（特に七将）との不仲を、朝鮮出兵時の遺恨とする理解が根強いのですが、文禄の役時の加藤清正帰国は三成の讒言ではなく、明使節との講和交渉に参列するためという説が有力になっています。清正は戦争継続派とされていますが、小西とは別ルートで明と交渉を行っていました。

実際、慶長の役に際し、「五大老」は明との和睦交渉を加藤清正に命じています。また、福島正則は慶長の役では渡海していません。したがって、加藤・福島と三成との不和を、朝鮮出兵の視点だけから読み解くのは難しいと思われます。

関ヶ原に際しても、三成が敵視していたのはむしろ細川忠興だったかと思います（ちょいうろ覚え）。福島正則とはぎりぎりまで寝返り工作を行い、福島正則も（どこまで本気かはわかりませんが）、使者を追い返すことはしていません。

関ヶ原に向けての政治史は極めて複雑怪奇で、とても今回のドラマですべてを描けないのですが、武断派対文治派、尾張派対近江派という対立は成り立ちません。ただとりあえず、大谷吉継の行動は象徴的であったかと思います。

上杉が関わってくるのは、「七将襲撃事件」で増田長盛の要請に応えてのものなので、少し前倒しになった形ですが、大筋では変わりはありません（実際の景勝はもっとリアリストでしょうが）。このあたりから、急速度で歴史が展開していくことになります。

なお「終焉」の回で、「今回の暗殺未遂は創作」とツイートしたのは、今日放映した「襲撃未遂」を意識したものでした。

板部岡江雪斎ですが、実際は北条氏滅亡後、秀吉の御伽衆になって形見分けも拝領しています（実際には信繁も脇指を拝領）。ただ、ここを描くと混乱するのと、最終的に家康・小早川秀秋と関わりが生まれるため、そちらのみにフォーカスした設定。なお、北条家の御家再興にも尽力しています。

―つかぬことですが、秀吉側近の中で、信繁だけなんで総髪のままなんでしょう？ビジュアル的に浮いてる気が。ほかの面々は軒並み月代なのに…。

よく誤解されるのですが、月代はこの時代では「流行り」ですので、人それぞれです。江戸時代に入ってから、法律で武士は月代にするよう定められます。

―月代は戦の時兜をかぶると頭がむれるので行ったのが始まりだそうです。
なので、平時は剃っていないことも（江戸時代以前）。
大原梨恵子「黒髪の文化史」に書かれていました。

ああ、それは「そういう説もある」レベルで、実証されたものではないですね。


―真田勢は田舎モンだからみんな総髪なんだなとか個人的に勝手に思ってたけど半分当たってたのか。

上方で流行りだしたようなので、大河ドラマでは、そうした記号わけをすることが多いですね。